当研究室では,ナノスケールデバイスの輸送現象,特に電気伝導現象を理論的に研究しています。金属の電気伝導理論としてはオームの法則が有名ですが,極めて微細なデバイスでは,この法則が成り立つとは限りません。
例えば,量子ポイントコンタクトと呼ばれるデバイスでは電気伝導度として特殊な離散値が階段状に現れたり,開放型量子ドットのようなデバイスでは電圧を上げると電流が減少したり,古典物理学では説明できない現象が起こります。これらは,電子の量子力学的性質や,クローン相互作用を考慮することで説明できます。
「なぜそのような現象が現れるのか」を理論的に追求し,未知の現象を予言することを目標としています。
1)開放量子多体系の非平衡状態
電子の流入・流出がある量子系を理論的に扱うためには,開放量子系の非平衡状態の解析が必要となります。さらに開放型量子ドットなどの電子の局在領域を持つ系では,電子間相互作用を考慮することが重要です。
2)多電子散乱状態の厳密解
相互作用系の多電子散乱状態を理論的に扱うことは容易ではありません。我々は様々なタイプの開放型量子ドットに対して,多電子散乱状態の厳密解を構成し,相互作用の効果が多体束縛状態として現れることを見出しました。
3)ナノスケールデバイスにおける量子輸送
多電子散乱状態を用いて平均電流を解析的に計算するアプローチ(ランダウアー公式の相互作用系への拡張)を開発しました。結果として,例えば,電圧の増加に対して電流が減少する現象(負性微分伝導度)を再現しました。
図1: 開放量子多体系
図2: 開放型量子ドットの電流電圧特性