わからないからこそ知りたい

高エネルギー粒子観測研究室

総合工学プログラム 学部4年

細野 甚八 さん

教養科目で学んだ手話がおもしろかった

この大学を選んだのは、高校3年生のときに、工学部への指定校推薦をいただけたからです。機械が好きなので、どちらかというと理系に進学したいと思っていましたし、神奈川大学なら総合大学なのでいろいろな授業を受けられると思い、進学することを決めました。大学に進むなら、理系の授業だけでなく、文系も含めていろいろなことを学んで知識を深めたいとも思っていました。

実際に入学すると、いろいろな科目を選択することができたので、1、2年生ではたくさんの授業を時間割に詰め込みました。多くの科目を履修したため、試験ではギリギリで通ることもあったのですが、いろいろなことを知りたくて手を出しまくったという感じですね。

印象深かったのは、理系科目ではないのですが、教養科目の手話の授業でした。手話の授業は入門レベルなので、手話を使いこなせるようになるわけではありませんが、少しは理解できるようになりました。テレビに手話通訳の人が出ていると意識して目を止めるようになり、「これ少しわかる!」と思えたときは、とてもうれしかったです。

写真:細野甚八さん

わからないからこそ知りたい

3年生になると、研究室を選んで所属し、専門的に学び始めることになりました。でも、私の場合、研究したい分野が絞り切れていませんでした。むしろ、どの先生の研究も興味深く、その中で一つを選ばなくてはならないので、頭を悩ませました。そうして最終的に選んだのが、「宇宙線」の計測を専門とする有働慈治先生の研究室でした。

宇宙線とは、宇宙で飛び交っている放射線のことです。放射線というと、地球の岩石から出ていたり、レントゲンや原子力発電所などのように、人工的に放出しているイメージがありますが、実は宇宙空間にも放射線が存在し、その宇宙線が地球に降ってくることもあり、放射線の種類によってエネルギーが高かったり低かったりするのです。

有働先生の研究室では、地球に降ってきた高エネルギー宇宙線にかかわる研究をしています。研究室を選ぶとき、有働先生に「先生の研究は、将来、社会でどのように役に立つのですか?」と尋ねたことがあるのですが、とても明るい声で「それはちょっとわからないね」というご返事でした。その言葉を聞いて、わからないことを知るのは興味深いことだと思い、宇宙線について研究してみようと考えたのです。

幼い頃から知ってもあまり役に立たない雑学みたいな知識が好きでした。科学の知識や工学の技術が社会で役に立つことは重要だと思いますが、わからないことがわかるだけでもおもしろいと思うのです。

研究室で日々、研究に取り組んでいますが、今はまだわからないことが多いです。でも、わからないからこそ知りたい。知らないからこそ知りたいし、それを自分の知識として誰かに語りたい。 できれば、大学院に行ってもう少し研究を続けたいです。せめて人に話せる何かができてから社会に出たい。わからないからこそ追究し続けたいと思います。

写真:実験機材

宇宙線を正確に捉えるために

現在私は、紫外線の減衰率を計測する方法について研究しています。宇宙線には、地球の大気に入ると電磁波の一種である紫外線を発するという性質があります。その紫外線を特別なカメラで捉えて、データを解析すると、宇宙線が元々どれくらいのエネルギーをもっていたかがわかるのです。

ただ、大気の状態によって発する紫外線が多くなったり少なくなったりしますので、宇宙線を観測するときは、紫外線の減衰率も同時に計測しておくことが必要で、私はその計測方法について調べています。その際には、撮影した画像を解析して調べると紫外線の強さがわかる特殊なカメラを使って撮影をします。

このカメラで撮影するのは一等星です。一等星の紫外線の強さはすでにわかっていますので、このカメラで捉えた紫外線の強さと比べれば、どれくらい減衰したかを計算で求めることができます。私は今、宇宙線を観測するときに、この減衰率をすぐに求めるにはどうすればよいかについて研究しています。

写真:細野甚八さん

純粋に知るだけでもおもしろいという学び

私がやっているこの研究も、今後、社会でどれほど役に立つかわかりません。でも、これまでわかっていなかったことがわかることは、それだけで単純にうれしいことです。また、そうして得られた新たな知識が、今後思わぬ形で社会の役に立つことがあるかもしれません。この応用物理を学べる学科は、物理を技術に応用するだけではなく、純粋に知るだけでもおもしろいと思える学びもできるところだと思います。

高校生で、この応用物理の分野が「おもしろそう」と思えるなら、挑戦してみてほしい。特定のテーマに強い興味がなくてもいい。私もそうでした。「よくわからないから知りたい」。そんな動機だけで始めてもいいと、私は思います。

総合大学ならきっといろいろな授業を受けられるチャンスがあるでしょう。この大学のようにいろいろな学びができて、いろいろなところに手を出すと、きっと「これをもっと知りたい」と思えるものが出てくるはずです。

写真:細野甚八さん