ナノとは「10億分の1」を表す言葉。
ナノサイエンスでは、目にとらえることのできないほど小さなナノサイズの世界(原子や分子のスケール)で起こる不思議な現象を見出し、それを役立つモノへと応用する研究をしています。
その応用分野は、環境・エネルギー、医療、食品、自動車、半導体、IoT、AI、航空・宇宙など多岐にわたります。
物質をナノサイズまで小さくすると、通常とはまったく異なる性質・機能を発現することがあります。
さまざまなナノサイズの物質について、そのユニークな特性を解明し、さらにその特性を制御することによって、これまで実現できなかった革新的な技術が生まれるのです。
膨大な情報を処理して、さまざまなシーンで活用するビッグデータの時代が到来しています。そこに必要な大量のデータを蓄積するための大容量HDD。その技術的なブレイクスルーのひとつには、ナノ磁性体を使った高感度の磁気ヘッドがありました。
膜厚が数ナノメートルの磁性膜・絶縁膜に生じるトンネル磁気抵抗(Tunneling MagnetoResistance, TMR)を利用した、従来より大幅に高感度の磁気ヘッドとしてTMRヘッドは2007年に実用化されました。TMRヘッドは2008年には市場の98%を占め、その後数年の間に市販のHDDの容量は4〜5倍と、大容量化が一気に進むこととなったのです。
地球上の水のほとんど、97%以上は海水であり、わたしたちが口にすることができる淡水はわずか0.01%と言われています。地球規模で深刻化する水不足を解消するため、この豊富な海水を淡水化しようという取り組みは世界中で長年続けられていますが、まだエネルギーやコスト面で、水不足を解決できるところまでは辿り着いていません。
そこで注目されているのが、ナノチューブを利用した次世代の淡水化技術です。ナノチューブは空洞の内径が極小であるだけでなく、内壁を原子レベルで操作することで、塩を通さない上に水を高速で透過させることができると期待されています。ナノチューブを使って海水から塩分を分離させる透過膜を開発できれば、海水から飲み水を高速に生み出し、世界を水不足から救うことができるかもしれません。
あなたも神奈川大学工学部
応用物理学科で、
ナノの世界へ
挑戦してみませんか?
電気抵抗ゼロという驚くべき性質をもつ超伝導体は、強磁場を発生させる電磁石(超伝導電磁石)などに応用され、その技術が医療用MRIやリニアモーターカーなどで実用化されています。
本実験では一般によく知られている高温超伝導体(YBCO)の試料作製を行い、その電気抵抗の温度依存性を測定します。試料作成および物性評価法の一例を経験することにより、物性科学の基本的実験手法を学びます。
こうした物性科学の実験手法は、ナノ材料のもつ不思議な性質を解明するための研究や、ナノレベルで特性を制御した今までにない次世代の材料を開発するための研究につながっていきます。
物質の特性を原子・分子レベルで解き明かそうとする分子シミュレーションは、近年の計算機技術の著しい発展により、ナノ物質科学の研究において強力なツールとなりつつあります。
本授業では、分子シミュレーション法の1つである分子動力学(MD)法の原理、アルゴリズム、実行方法、応用事例などについて講義と実習で学びます。
実習では、たとえばカーボンナノチューブに閉じ込められた原子・分子の運動や構造をMD法によって調べます。シミュレーションの実行方法を学ぶだけでなく、シミュレーション結果を可視化することにより、物質の原子・分子レベルでの振る舞いをイメージできるようになることや、シミュレーションを用いた物性予測・解析手法の基礎を身につけることを目指します。
カーボンナノチューブの空洞内に水を流すと、その速さは流体力学の予想から大幅に外れて超高速であるという報告があります。このような特異な現象が起こる要因として、カーボンナノチューブ空洞の壁と水との間に摩擦が生じない(もしくは摩擦が非常に小さい)とする説がありますが、その詳細はまだじゅうぶんに明らかになっていません。
本研究室では、水のナノ構造と摩擦に着目し、超高速な水の流れの機構を明らかにするための研究を行っています。たとえば、分子動力学計算を用いて、カーボンナノチューブの直径、長さ、空洞形状、温度、圧力などを変えることにより、水の流れる速さがどのように変化するかを調べたり、カーボンナノチューブ内での水の構造を放射光X線回折実験などによって調べています。
カーボンナノチューブ内での水の流れの機構が明らかになれば、水を高速にろ過するシステムの開発などに繋がると期待されます。
磁性体は「スピン」と呼ばれる、原子サイズの小さな磁石が多数集まることにより成り立っています。そして、これらのスピン間には、2つのスピンの向きを揃えようとする強磁性相互作用や、互いに反対向きにしようとする反強磁性相互作用などが働いており、互いに様々な影響を及ぼしあっています。その結果として、磁性体全体がどのような構造・性質を示すのかを、統計物理学や計算機シミュレーション等により明らかにすることが研究の目的です。
また、効率的なシミュレーション手法の開発も行っています。例えば、当研究室で開発をした「確率的カットオフ法」は、磁気双極子相互作用のように、相互作用が遠方まで及ぶ場合に効果を発揮するシミュレーション手法であり、磁性体の研究においても大いに役立てられています。
地球を周回する人工衛星や宇宙ステーション内では、遠心力とのつり合いによって重力がほとんど働かない微小重力環境が実現できます。微小重力環境では、溶液中で浮力がほとんど働かず対流も発生しないため、地上では難しいナノスケールでの高品位な材料を精製することが可能となります。
地上から国際宇宙ステーションに材料を輸送することで、これまでにないナノスケルトンなどの新しい有用な材料を生み出すことが期待されています。